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東京高等裁判所 昭和63年(ラ)86号 決定 1988年3月11日

抗告人(申立人)

抗告人(相手方)

右代理人弁護士

坂本廣身

木村武夫

松本輝夫

主文

本件各執行抗告をいずれも棄却する。

執行抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一  抗告人Xの執行抗告の趣旨及び理由は別紙(一)記載のとおりであり、抗告人Yの執行抗告の趣旨及び理由は別紙(二)記載のとおりである。

二  抗告人Xの抗告理由について

不動産引渡命令の制度の趣旨や民事執行法八三条一項の規定に照らすと、引渡命令によつては不動産の引渡以外の作為(地上建物の収去など)、不作為の義務を命ずることはできないと解されるから、建物の敷地部分について土地引渡命令を発しても、右命令によつては地上建物の収去を実現することができないため、結局右命令の執行は不能ということにならざるを得ないが、このようにその内容の強制的実現が不能な引渡命令を発することは、法律上の意味がなく、許されないものというべきである。

三  抗告人Yの抗告理由について

1  本件記録によれば、原決定の主文と引用の物件目録とを対照すれば、引渡しが命じられた土地の範囲がいかなる地域にあたるかを現地において特定することはできるものと認められるから、原決定には主文不明確の違法はない。

2  本件記録によれば、抗告人Yは、本件競売申立人の抵当権設定登記後で本件競売開始決定(昭和六一年九月一〇日、差押登記同月一一日)前である同年四月二三日、本件土地(原決定物件目録1、2(但し書を除く)記載の土地)につき所有者Aとの間で、貸金債権を担保するため債権額一八五〇万円とする抵当権設定契約及び右債務不履行を停止条件とする代物弁済契約をそれぞれ締結し、同年五月八日その旨の抵当権設定登記及び停止条件付所有権移転仮登記を各経由したこと、そして抗告人Yは、同年六月五日ころAとの間で、本件土地につき期間を五年とする賃貸借契約を締結し、本件競売申立人から抵当権実行の通知を受けた後の同年七月末ころまでに、本件土地のうち2の土地上にプレハブ造仮設建物を建築して内装等の工事を行わないままこれを空家の状態にしていたが、本件競売開始決定直後の同年九月一四日ころ、急遽内装工事等を終え、知人のBをして右建物に入居させ、同月一八日右建物につき所有権保存登記を経由したこと、Bは、同月一六日、本件土地に立ち入り調査をした千葉地方裁判所松戸支部執行官に対し、知り合いのYから留守番を頼まれてテレビと布団だけを持つて昨日入居したが、二、三日したら退去し、近日中に別人が入居する予定である旨の陳述をしたことが認められる。右事実によれば、抗告人Yの右賃借権は、差押えの効力発生後に借地上の建物について登記が経由されたもので、民法三九五条の短期賃借権の要件を満たしていないことが明らかであるうえ、本件土地の真正な使用、収益を目的とするものではなく、執行を妨害し不当な利益を取得することを目的として設定された濫用的なものであることを推認することができる。

このように不当な目的を有する賃借権を占有の権原として主張することは、引渡命令の手続においては権利の濫用として許されないものであること、短期賃借権の要件を満たしていない賃借権は、売却によつて消滅するものと解されること及び民事執行法八三条一項の立法趣旨に徴して考えると、右のような賃借権に基づく不動産の占有者は、差押えの効力発生前からの占有者であつても、同条一項本文の占有者又はこれに準ずる者として、引渡命令の相手方となるものと解するのが相当である。

そうすると、右賃借人である抗告人Yは、本件引渡命令の相手方となるべき者である。

四  よつて、抗告人Yに対し、前記建物の敷地部分を除いて本件土地の引渡しを命じた原決定は相当であつて、本件各執行抗告はいずれも理由がないから、これを棄却

(裁判長裁判官 櫻井敏雄 裁判官 仙田富士夫 市川賴明)

<以下省略>

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